金持ちへの第一歩 バンガードファンドへ投資について
インデックス投資家や米国株投資家の間では以前から知られていた米国の投資運用会社・バンガード社。昨年は、日本でも「楽天・バンガード・ファンドシリーズ」の登場で大きく話題となった。今回の吊られた男さんは、「なぜバンガード社は世界最強の資産運用会社と呼ばれるのか?」「バンガード社のファンドは、どうしてコストが安いのか?」など、バンガード社の強さの秘密を解き明かす!
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米バンガード社のインデックスファンドで
運用する良質な投資信託が登場
インデックス投資家にとって2017年のビッグニュースの一つとなったのが、楽天×バンガードの「楽天・バンガード・ファンドシリーズ」の登場です。楽天・バンガード・ファンドシリーズは、アメリカで非常に人気の高いバンガード社のETFで運用するインデックスファンドであり、日本のインデックス投資家からも「あのバンガード社のファンドを日本で買えるようになった!」と話題になりました。
私も、楽天・バンガード・ファンドのインデックスファンドは、非常に高く評価しています。その理由は、まず、コスト面で非常に優れていること。どのファンドも購入手数料が無料のうえ、運用期間中にかかる信託報酬も、同じインデックスを投資対象とする他社のファンドにくらべて低めになっています。
さらに、新しいファンドといっても、その投資先はすでに素晴らしい運用実績のあるバンガードのETFなので、おかしなトラッキングエラー(ベンチマークとのズレ)が出るようなことも考えにくいです。
このように、楽天・バンガード・ファンドシリーズは、現時点で日本で買えるインデックスファンドとしては、非常に優秀なファンドシリーズになっています。加えて、つみたてNISAやiDeCo(iDeCoは楽天証券のみ)でも買えるので、まさに長期での資産形成に適している商品と言えそうです。
あえて楽天・バンガード・ファンドシリーズの弱点に言及するならば、この記事を書いている時点で4本しかファンドがない(全世界株式、全米株式、新興国株式、米国高配当株式)という選択肢の少なさです。
しかし、1本で世界中の株式市場をカバーする「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」がラインナップに入っていますので、「つみたてNISAを始めたいけど、何を買っていいかわからない」という人はこのファンドを1本積み立てておけば、大きな間違いはないと思います。つまり、そもそもたくさんの商品数がいらないとも言えるので、大きな弱点ではないでしょう。
なお、楽天・バンガード・ファンドシリーズを高く評価しているのは、私だけではありません。投資信託投資ブロガーが投票して決める「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2017」で1位と3位にランクインしており、私以外の多くの人からも高い注目と評価を得ていることがわかります。
なぜ、これほどまでにバンガード社の運用するファンドが注目されるのでしょうか。それは、バンガード社がユニークな特徴を持っているからです。今回は、このバンガード社について解説していきます。
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バンガード社は、世界で初めて
個人向けインデックスファンドを売り出した運用会社
今では機関投資家などの間で広まっているインデックス運用ですが、それをいち早く提唱し、資産運用会社として世界トップクラスの地位に立ったのが、アメリカのバンガード社です。
ジョン・ボーグル氏が設立したバンガード社は、1976年、世界で初めて個人向けインデックスファンドを設定しました。当初はインデックスファンドなんてくだらないと考えられ、「ボーグルの愚行」とまで言われました。
しかし、その後インデックスファンドはその実力を示し、2016年にはアクティブファンドから40兆円資金が流出する中でインデックスファンドには60兆円の資金が流入するほど人気となりました。
このようにインデックスファンドに資金が集まることにより、今ではアメリカ株式投信の20%以上がインデックスファンドで運用されています。
インデックスファンドの登場から40年以上が過ぎましたが、2017年時点ではバンガードの運用資産総額は4.7兆ドルになりました。これはブラックロック社に次ぐ世界2位の運用資産総額です。
その上、インデックス運用人気の流れに乗った機関投資家からも個人投資家からも資金を集めていて、ブルームバーグの『ブラックロックとバンガードが支配する世界-数年で運用額2250兆円に』という記事では、2020年には現在首位のブラックロックを抜いて世界1位になり、2023年には運用資産総額が10兆ドルを超えるという予想がされてます。
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バンガードの投資信託が強い理由は
持続的な低コストを実現する仕組にあった!
バンガードが資産を集めているのは、バンガードのファンドはコスト(投資家が払う費用)が低いからと言われています。
実際にその通りです。一般的にインデックスファンドはコストが低く、アメリカでの業界平均のExpense Ratio(≒信託報酬)が0.62%となっていますが、バンガード社のインデックスファンドのExpense Ratioは0.12%と業界平均の1/5以下の水準になっています。
しかし、単にExpense Ratioを下げればいいだけであれば、他の会社も真似して値下げを行うことで熾烈な価格競争となり、バンガード社の競争優位性はなくなってしまいます。しかし実際は他社がバンガードに追従することは簡単ではありません。
バンガード社の表面上の強さはコストの低さですが、その裏側には他社が容易にマネできない低コスト競争に勝ち抜くための持続可能な戦略的仕組みがあり、これが真のバンガード社の強みとなっているのです。
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日本の投資信託は「適正な受益者負担の原則」を
まったく満たしていない!
アットコストは「適正な受益者負担の原則」と言い換えてもいいでしょう。
ここには「適正」と「受益者負担」という2つの特徴があります。受益者負担を簡単に説明すると「サービスを利用する人(受益者)が、そのサービスのコストを負担する」ということです。逆に言えば、サービスを利用しない人はそのサービスにかかるコストを負担しないということになります。
「受益者負担って当たり前じゃないの?」という声も聞こえてきそうですが、日本の投資信託に対して投資家が負担するコストを見ると、実に不思議で分かりにくい仕組みになっています。
銀行や証券会社へ投資信託を買いに行くと、その金融機関のスタッフが出てきて「投資をお考えとのことですね。それではまずどのように資産を……」と商品選びどころかマネープランやライフプランから相談に乗ってくれます。ここでスタッフの時間を使っているはずなのですが、それに対して手数料は取られません。
また、その金融機関で口座を開いても、口座手数料は取られません。実際には、顧客が口座を開けばその口座情報を管理する手間がかかるはずですが、顧客が手数料を払う必要はありません。
次に、投資信託を購入すると、基本的には購入手数料がかかりますが、最近は購入手数料が無料の「ノーロード」ファンドも増えています。そのため、ファンドや購入する金融機関などによって購入手数料がかかる場合とかからない場合があります。
その他、金融機関が投資家向けセミナーを行うことがありますが、この手のセミナーはだいたい無料です。
さらに、投資信託購入前の相談が無料と書きましたが、投資信託購入後の相談も無料です。今持っている投資信託を保有し続けるべきか、売却して違う投資信託を購入すべきか、といった相談にも無料で乗ってくれます。
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日本の金融機関は、
投資家に不必要なコストを負担させている!
金融機関は、自ら自腹を切って奉仕をする団体ではなく、利益を追求する企業です。あくまで利益を出すことで事業を続けていきます。つまり、いろいろな手間がかかるサービスを無料としているということは、その分どこかで顧客から手数料を取っているのです。
上の例では、費用がかかるのは、「購入時の手数料」及び投資信託保有時にかかる「運用管理費用(信託報酬)」でした。ここからしか投資家から費用を取っていないということは、「購入時の手数料」や「運用管理費用」などと言いながら、実際には相談や口座管理、セミナーなどの費用分も一緒に徴収しているのです。
「ちょっと待って、私セミナーなんて参加していないけどその費用も取られているの?その分、運用管理費用下げてよ。」と言っても通用しません。
また、口座を開いたはいいけれどお金を1円も入れていない口座もあります。そのような口座を管理する費用も、お金を払ってくれる人から徴収しています。さらに言うと0円ならまだマシで、数千円や1万円といった少額だけ入金して投資信託などを保有されると目も当てられません。
保有金額にかかわらず、投資信託保有時にかかる運用管理費用の負担率は同じです。運用管理費用が1.0%であれば、1万円の購入でも1000万円でも1%です。1万円と1000万円では金融機関に入る手数料は1000倍違いますが、口座管理の手間や運用報告書を送るといったような手間は変わりません。
最近では、数百円から投資信託を購入することができる金融機関もありますが、仮に500円ずつ20種類の投資信託を保有されると、その分だけ運用報告書を送ることになり、印刷代と送料だけでもバカになりません。1万円という金額から数%の手数料をもらったところで大赤字です。
このような赤字口座の管理にかかっている経費も、他の投資家から徴収しているのです。
そのため、「私は自分で購入・売却判断ができるので相談に乗っていただかなくて構いません。セミナーも不要です。1億円以上投資信託を購入しています。」という人であっても相談料、セミナー料の分だけ割引になるわけでもなく、投資額によるボリュームディスカウントも受けられません。
日本の金融機関における手数料は、そのサービスの利用者(受益者)が負担する受益者負担の原則に則っていません。
さらに、このようにサービスを受けている人がそのサービス毎に費用を負担するのではなく、まとめて費用をとっていると、実際にかかるコストが分かりにくくなります。
「相談料は1回5000円」のように個別にサービス料金が分かっていると、それが安いか高いか判断しやすいのですが、みんなの運用管理費用の中から相談料も貰っているとなった場合、本当に相談料に見合った適切な金額が徴収されているのか分かりにくくなります。
手数料体系をわかりにくくして割高な料金を徴収するというのは、企業の常套手段です。投資信託の世界でも3階建て4階建てといったよくわからないけど複雑な仕組みの投資信託を用意して何となく凄そうなイメージで割高な手数料を正当化するような話もありました。
受益者負担の原則に従っていないことで、適正以上の費用を負担させられているとも言えます。
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バンガード社では、公平性を保つために
あえて口座管理料やアドバイス料を徴収
さて、この日本の費用体系を踏まえた上でバンガード社の費用体系を見てみます。
バンガード社のアットコスト(適正な受益者負担の原則)のよい例が、口座手数料とアドバイス料です。
まず、バンガード社では、口座の資産残高が1万ドル以下の口座からは年20ドルの手数料を取ります。運用管理費用から口座管理料をカバーできないような人の口座管理費用を他人からいただくのではなく、ちゃんとその口座の持ち主に負担してもらうことになっています。
また、バンガード社では、相談も無料ではありません。相談をする場合には、資産残高の0.3%が相談料としてかかります。「相談を受けるには、その人の経費がかかるのですからしっかり負担してもらおう」という仕組みです。
なお、50万ドル以上の口座残高の人の場合は、運用管理費用から十分に費用を負担いただいているということなのか、この相談料が無料になるといったようなサービスもあります。